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令和4年6月26日
毎日新聞 - 引用
持続可能な社会を目指し、「環境・社会・企業統治」の企業姿勢を重視する「ESG投資」への注目が世界で高まり、日本でもESGをうたう投資信託が急増している。だが、選定基準があいまいだったり、専門人材を欠いたりする投信もあり、ブームに便乗した乱造という批判も出ている。金融庁は運用会社に対し、ESG投資を行う体制整備や情報開示などを求め、こうした「なんちゃってESG」投信の排除に乗り出す方針だ。
◇看板倒れの「グリーンウオッシュ」
ESGは、環境(Environment)▽社会(Social)▽企業統治(Governance)――の頭文字で、企業が長期的に成長するにはESGの三つの観点が重要とする考え方だ。2015年に国連が採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」とも共通しており、世界的に浸透している。
国連は06年、機関投資家に、ESGを投資に組み込む「責任投資原則(PRI)」を提唱し、ESG投資が広まった。国際団体「世界持続可能投資連合」によると、20年のESG投資は世界で35兆3000億ドル(20年の為替レート換算で約3768兆円)に達した。
日本でも18年ごろから、ESGをうたう投信が急増している。金融庁によると、21年10月までに資産運用会社37社が225本を設定し、うち96本は21年に出た。
だが、一連のESG投信には「投資や運用の基準があいまいで、看板倒れではないか」という声も根強い。
企業が「環境」をうたいながら、企業行動や商品の実態が伴わず、環境意識の高い消費者を欺くことは、英語の「ホワイトウオッシュ(ごまかし)」になぞらえ「グリーンウオッシュ」と呼ばれる。投信でもそうした欺瞞(ぎまん)があるという指摘だ。
◇3割は部署なし・4割は人材なし
そこで、金融庁はESG投信を設定する運用会社に聞き取り調査し、22年4月に結果を公表した。
ESG投信225本のうち83%は株式指数を上回るリターン獲得を目指すアクティブファンドで、多くは信託報酬を年率1.6~2%に設定していた。信託報酬は投信残高に応じた運用費用で、投信を保有する間ずっとかかる。アクティブファンドの平均は1.4%程度で、やや高めだ。
金融庁に対し、運用会社の多くは「長期的リターンを追求し、持続可能な社会の発展に貢献していくことを重要な経営課題と位置づけている」と回答した。
だが、ESG投信は償還期限を「10年以下」と設定するものが37%もある。償還期限になると、投信は運用をやめ、保有者に償還金を払って消滅する。ESG投資は「長期的」な視点といいながら、最初から、比較的短い投資期間での「手じまい」を想定しているわけだ。
運用会社の8割は、投資先の選定のため、企業のESG度合いを測る「独自スコアを分析に活用している」としたが、金融庁によると、その中身はさまざまだった。ESG投信の63%は外部機関に運用を全面委託し、委託先の投資戦略は「具体的に把握していない」として、事実上「丸投げ」する会社もあった。
情報開示も問題があった。そもそもESG投資に対する基本的な考え方や取り組み状況を開示していない会社があった。投資判断に必要な重要事項を記載する目論見書に「ESGの観点で投資している」と記載してあっても、欧州の運用会社などと比べると説明内容は抽象的だった。
◇欧米でも新規制案
金融庁は5月27日、資産運用業界への方針をまとめた「資産運用業高度化プログレスレポート」を公表した。ESG投信については、顧客が適切な判断ができるよう、運用会社が適切な説明や開示を積極的に行うことを期待するとしている。
ESG投資のグリーンウオッシュは日本だけの問題ではない。欧米でも問題視され、最近、規制強化の動きがある。
米国証券取引委員会(SEC)は22年5月25日、ESG投資商品に、投資の具体的な方法や、投資によって生じる社会的インパクトの開示を義務づける規則案を示した。
欧州連合(EU)の規制当局、欧州証券市場監督局(ESMA)は5月31日、ESG投信に対し、投資家が誤解しないよう名称制限などを盛り込む報告書を公表した。
とりわけ日本の金融業界では、流行の投資テーマを掲げた投信を乱造し、販売手数料を稼ぐため、顧客に次々に乗り換えさせる「回転売買」が横行してきたという事情があり、より根は深そうだ。
金融庁の指導で、こうした回転売買はようやく減ってきたとみられている。だが、ESG投信の急増やその実態をみれば、投信乱造の「あしき伝統」がまたぞろ顔をのぞかせている可能性がある。個人投資家は、十分注意したいところだ。